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ゲイと独身女子の間で交わされる定番の会話といえば「お互い独り身だったら結婚しようね」だろう。しかしそれを実践している人はほぼ見ない。そんな、ゲイと女子の「友情婚」を実践して話題を呼んでいるのが、作家の能町みね子さんと、ゲイライターのサムソン高橋さんだ。先日発売された能町みね子さんの新著『結婚の奴』(平凡社)では、不思議な“夫婦”生活があけすけに描かれている。気になるその実態について、能町さんに話を聞いた。Text : Makito UechiPhoto : EISUKE30代後半、突如訪れた「結婚ブーム」能町みね子さんといえば、トランスジェンダー女性としての体験記をつづったエッセイ『オカマだけどOLやってます。』(竹書房)で作家デビュー。その後は『久保みねヒャダこじらせナイト』(フジテレビ)をはじめ、テレビ、ラジオ、雑誌コラム等で幅広く活躍中。そんな能町さんは、37歳初夏、猛烈に「結婚ブーム」が訪れたという。「最初は結婚というより、誰かと“同居したい”と思ったんです。一人でいると仕事の効率が悪いんですよね。生活リズムがどんどん乱れて、毎日朝4~5時に寝る生活。誰かと同居して見張って欲しかったんです」いわゆる恋愛的な結婚ではなく、生活リズムを整えるための同居(結婚)であれば、友達とルームシェアするなどでもいいのでは?「当時37歳だったので、女友達となると、すでに家庭を持っていたり、独身でもいつか結婚して離れるかもしれないと。そんなとき急に『結婚ってどうだろう?』と思いついたんです。生活の効率さを重視して、“手段としての結婚”って面白いかなと思いました」本作『結婚の奴』にも詳しく書かれてあるが、能町さん自身、恋愛が向いていないという自覚があった。そこで、恋愛に基づいた結婚ではない友情婚を思いつく。ちょうどその頃、作家の中村うさぎさんが、ゲイと結婚しているニュースを耳にした。「こういうスタイルがあるんだ」と、これがゲイとの結婚を考えるきっかけになったという。「中村さんの例を知った時、何人か知人のゲイを頭の中で思い浮かべたんです。そしたらパッとサムソンさんを思い付いて。元々ツイッターでやり取りしていたし、話が合いそうだなと」「本人はモテないモテない言ってるし、固定のパートナーを作る気もなさそう。私と同じぐらい恋愛に冷めきっている感じがありますし、同居相手としては最適かなと、いう感じですね」著書では、顔見知り程度だったサムソンさんに狙いを定め、徐々に距離を詰めていく様子が鮮明に描かれている。面白いのが、“アンチ恋愛結婚”だった能町さんがサムソンさんに対する行った数々のアプローチは、結果として恋愛っぽくなっているということだ。これはぜひ本にて。現代の“恋愛至上主義”に違和感を感じてきたそもそも、なぜ能町さんがここまでドライな結婚観を持っているのか?著書では、その独自の恋愛観をつづったパートも印象的だ。現代は「恋愛至上主義」であり、世の中には恋愛ソングがあふれ、ドラマ、映画、雑誌では「恋愛こそ人間最大の喜び」かのように喧伝している。能町さんはそこにフィットしていない自分に疎外感を抱いてきた。「(恋愛は)コンプレックスでしたね。モテないコンプレックスとはまた違う、恋愛に完全に乗り切れないという感覚。『好き』っていう気持ちはちょっとある。ただ『好き』という感情が一般的に10だとしたら、自分には3以降がない感じ。いつか10になるのかな?と思っていました」多くの人は恋愛的な生きづらさを感じても、「自分が非モテなだけ」と片付けてしまうだろう。能町さんがユニークなのは、恋愛至上主義な社会通念を疑い、実際にさまざまな恋愛を実行&検証してきたことだ。その結果として、最終的に「自分には恋愛が向かない」と判断。恋愛をすっ飛ばし、効率手段としての「結婚」を選択することになる。章のタイトルは「ジェラートピケ」「ハーゲンダッツ」などすべて7文字に。一見可愛い言葉が並ぶが、内容はシビアでドライなエッセイ。そのギャップが面白い。 友情婚は「やっちゃった方がいい」恋愛感情の一切ない、効率重視の「結婚」を選択した能町みね子×サムソン高橋の夫婦。結婚して丸2年経ったが、結婚前と今を比べてどうだろうか?「前は4~5時に寝てたのが、1時ぐらいには寝るようになって(結婚前と比べて)生活の効率が良くなりましたね。あとサムソンさんが毎日朝ごはんを作ってくれるんですよ。以前は朝ごはんを食べるなんてほぼ無かったのが、今はちゃんと朝起きて、ごはんを食べてから仕事に出かける──ちゃんと生活しているな…!という感じです」日々小さな幸せを感じていると話す能町さん。意外なのが、家事の9割5分をサムソンさんが担当していること。「サムソンさんは元々料理をする方ですが、同居してから料理のレパートリーが増えたと思う。餃子からパエリア、ローストビーフなど、けっこう手間のかかる料理も作りますね。クッキー、かぼちゃプリンなんかのデザート系も。あとは毎日スムージーを作っていて、今朝も朝飲んできました」夜型で不健康そのものだったが、驚くほど健康的で充実したライフスタイルに変化。「私は料理を全くしないので台所は任せっきり。なので何がどこにあるかわからなくて、アルミホイルさえ場所がわからない…。昭和のお父さんみたいな感じになってます」ちなみにサムソンさんといえば、著書『世界一周ホモのたび』(ぶんか社)でも描かれる自堕落で非モテキャラが有名なだけに、健康で家庭的なライフスタイルのギャップには驚く。能町さんは結婚によりライフスタイルが大きく改善されたが、サムソンさんは結婚についてどう思っているのだろうか?「本人的には『どうでもいい』と。誰かいてくれた方が効率は良いし、あんまり働きたくないからお金くれるなら喜んで、という感じです(笑)」どこまでもサムソンさんらしい回答だ。最後に、独身女子とゲイの「友情婚」を考えている人にアドバイスをもらった。「身もふたもないですが、『一人より二人の方が効率良いよ』と言いたいですね。自分を律して生活できる人なら問題ないですが、一人だとだらしなくなるタイプや、固定したパートナーがいなくてもいいと思っている人ならいいのかも。(生活するなら)誰かいた方がいいですね」「30・40代の独身女子やゲイでもあると思いますが、『お互い独り身だったら、結婚しようね』という口約束は飲みの場では必ず出ますよね。でも言うだけでやる人はまずいない。私は『やればいいのに』と」能町さんは、自身の恋愛についてさまざまな角度から検証してみたり、今回のサムソン高橋さんとの結婚など、その実行力はハンパない。「行動あるのみ、みたいなところはありますね」と締めくくった。ゲイと女子の友情婚。ありそうで意外とない、その貴重な例として、気になる人はぜひ本作をチェックしてみて。能町みね子『結婚の奴』(平凡社)|Amazon