文:英司(コラムニスト)
真冬ですね。ここ最近は東京でも最低気温が氷点下を記録するなど、寒がりで夏が大好きな筆者にはキツイ季節を過ごしています。
空回り?日本企業のLGBT施策
先日、こんな記事を見つけました。
空回りする日本企業のLGBT施策…当事者からの評判はあまりよろしくない!?(日刊SPA)
上記の記事によると、LGBT向けのサービスや制度を始める企業は現れてはいるものの、サービスを提供する企業側の社内で周知徹底がなされていないため、利用する人があまりいない、と結論づけています。
確かに筆者も、日本市場におけるLGBTマーケット戦略や、企業におけるLGBT向け施策には不発の感を覚えています。
ただ、それはサービスを供給する側の周知不足によるものだけではなく、周知を徹底することによってのみ解決するものでもないと考えています。
制度の利用には「カミングアウト」が前提となる
筆者はそもそも、日本における「LGBT市場」や、性風俗を除く「ゲイビジネス」の成立には懐疑的な立場です。詳しくは以前別の媒体で書いた下記の記事をご参照いただければと思います。
ゲイが語る「LGBT市場」という幻想。ずっと前からレッドオーシャンだったゲイビジネス(All About)
今回は、LGBT市場とは別に、企業におけるLGBT社員向け施策に焦点を絞って考えて行きたいと思います。
筆者が現在勤めている会社には、特段LGBT社員を対象とした社内の制度等はありません。しかし会社側がそういった施策を創設したとしても、利用するかと言われればそれもまた「?」というのが正直なところです。
というのも、こうした制度の利用には、必ずカミングアウトがセットになって付いて来るからです。
筆者は比較的オープンなゲイであり、社内に私がゲイであることを知っている同僚や先輩、後輩もいます。しかしながら、それは互いに信頼を置いている仲同士であることが前提であって、こんな所で記事を書いている比較的オープンな私でさえも、知られたくない人はいますし、そういう人とはできれば何も言わずに穏便に過ごしたいと考えています。
しかし、LGBT向けの何か特定の制度を利用しようとした時、その行為には必ずカミングアウトがセットになって付いて来ます。その制度の利用には、いつも顔を合わせている直属の上長に申請が必要かもしれませんし、それをきっかけに、セクシュアリティを知られたくない同僚や先輩や後輩、逆に顔も見たことのない総務等の管理部門の人にまでセクシュアリティを知られてしまうのでは、と考え、利用をためらう同性愛者もいることが予測されます。
そうした制度への取り組み自体は先進的ではあると思いますが、この「カミングアウト」という壁の高さは、やはり当事者にしかわかり得ないものなのかもしれません。
それに、こうした動きを歓迎し、企業側にLGBT研修等を開いて啓発をしているLGBTアクティビストと呼ばれる人たちと、ノンポリティクスに暮らす同性愛者との間での「カミングアウト」に対する考え方にも、かなりの違いがあると感じています。
前者はこれを社会を変革していくために推奨されるべき行為であると考えているのに対し、後者は極力必要のないところではしたくないこと、と考えているように見えます。
こうした差異もまた、「不発の感」を醸し出している一因になっているのではないかと筆者は考えます。
次のページ >> 「LGBTフレンドリー企業」ほど陥りやすいこと